皆様、こんにちは。
今回の青山通信も、相続法改正に関する連続講座をお送りします。
最終回となる第13回のテーマは「自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設」です。
皆様こんにちは。弁護士の吉川です。
今回は、自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度についてご紹介いたします。
1 自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設
以前(相続法改正連続講座第1回参照)に、自筆証書遺言について、遺言書の管理者が決まっているわけではないため、遺言者の死亡後に偽造されたり隠匿されたりするおそれがある等のデメリットがあると述べました。
今回の相続法改正では、自筆証書遺言の場合における上記のデメリットを回避し、紛争を防止するために「法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)」が制定され、法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管するという制度が創設されました。
2 遺言書保管制度の概要
(1)申請手続
遺言者は、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言保管所(法務大臣が指定した法務局です。)の遺言書保管官に対して自筆証書遺言に係る遺言書の保管の申請をすることができます(遺言書保管法4条1項、2条1項、3条)。
この際、変造等を防止するため、必要書類(遺言書、申請書等)を準備したうえで遺言者自らが遺言保管所に出頭して申請し、本人確認手続を行う必要があります(同法4条6項、5条)。
その後、遺言書は、遺言書保管所である法務局で保管されます(同法6条1項)。
(2)遺言書の閲覧(同法6条2項ないし4項)
遺言者は、当該遺言書が保管されている遺言書保管所(「特定遺言書保管所」といいます。)の遺言書保管官に対して、いつでも当該遺言書の閲覧を請求できます。
閲覧請求する場合も、遺言者が特定遺言書保管所に自ら出頭して本人確認手続を行う必要があります。
(3)遺言書の保管申請の撤回(同法8条)
保管後でも、遺言者は、いつでも保管申請を撤回することができます。この場合も、遺言者が特定遺言書保管所に自ら出頭して本人確認手続を行う必要があります。撤回後は遺言書が返還され、管理されていた情報も消去されます。
なお、遺言者が生存している間は、遺言者以外の者は遺言書の閲覧などを行うことはできません。
(4)相続開始後どうなるか
①遺言書保管事実証明書交付請求が可能(同法10条)
遺言者が死亡し相続が開始した後は、誰でも、遺言書保管官に対して、遺言書保管所に自己が関係相続人等(相続人、受遺者などをいいます。)に該当する遺言書が保管されているかどうかを証明した「遺言書保管事実証明書」の交付を請求できます。この場合は、実際に保管している所以外の遺言書保管所の遺言書保管官に対しても請求できます。
②遺言書情報証明書交付請求、遺言書閲覧請求が可能(同法9条)
関係相続人等は、遺言書保管官に対して、保管されている遺言書について遺言書保管ファイルに記録されている事項(遺言書の画像情報等)を証明した「遺言書情報証明書」の交付を請求できます。この場合も、実際に保管している所以外の遺言書保管所の遺言書保管官に対しても請求できます。
また、保管している遺言書保管所の遺言書保管官に対しては、遺言書の閲覧も請求できます。
なお、遺言書情報証明書の交付、遺言書の閲覧がなされたときは、原則として遺言書保管官が速やかに当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者に対して通知します。
③検認手続は不要(同法11条)
自筆証書遺言の場合、遺言書の保管者(保管者がいない場合は遺言書を発見した相続人)は、相続の開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して検認手続を行う必要があります(民法1004条1項)。検認手続とは、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止する手続です(遺言書の有効性を判断する手続ではありません)。
しかし、遺言書保管制度を利用して保管された自筆証書遺言については、保管申請時に記録されており偽造・変造を防止できるため、検認手続は不要となりました。
3 まとめ
自筆証書遺言は公正証書遺言等と比較して、公証人の関与、証人、費用が不要であるというメリットがある一方で、紛失、偽造・変造、隠匿のおそれがある等のデメリットがありますが、今回の保管制度により、デメリットは一定程度軽減されることになります。
なお、遺言書保管法の施行日は令和2年7月10日となっています。施行日前には遺言書保管制度は利用できませんので注意が必要です。
当事務所では遺言書の作成に関するご相談もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。