皆様、こんにちは。
今回の青山通信も、相続法改正に関する連続講座をお送りします。
第12回のテーマは「配偶者居住権(長期)」です。
こんにちは。弁護士の増子です。
さて、ご存知のとおり、今年7月に相続法の大改正がありました。
今回ご説明するのは、今回の改正の目玉の一つである「配偶者居住権(長期)」についてです。
ちなみに、配偶者居住権については、来年(2020年)4月1日からの施行となります。
1 配偶者居住権創設の目的
例えば、Aに妻Bと息子Cがいて、AとBはA所有の自宅に居住していたといます。この状況でAが亡くなった場合、基本的には自宅は相続人であるBとCの共有になります。Bが自宅に住み続けたい場合、これまでの制度では、Bが遺産分割で自宅を相続するしかありませんでした。
しかし、不動産というのは基本的に高額です。仮に、Aの遺産が自宅(2000万円)と預貯金500万円だとすると、BとCの法定相続分は1:1ですので、1250万円ずつになります。そうすると、Bは自宅を取得するために、預貯金500万円をすべてCに譲ったうえで、さらに代償金として750万円を自分のポケットマネーからCに支払わなければならないということになります。
それでもBに支払い能力があれば良いのでしょうが、実際は配偶者であるBも高齢であることが多く、収入源も年金のみという場合も少なくないため、数百万円もの支払いは困難であるケースが多いです。そうすると、Bは結局住み慣れた自宅を売却して売却代金をCと分けるしかなくなります。
ちなみに、Aが「自宅をBへ」という遺言を遺していたとしても同じ問題が発生する可能性があります。Cには「遺留分侵害額請求権」(旧:遺留分減殺請求権)がありますので、最低限法定相続分の2分の1(625万円)を取得する権利があります。この場合、BがCへ支払う金額は、預金+125万円になるので、金額的には安くなりますが、125万円を用意できない場合は、上記と同様、自宅を売却せざるを得ません。
これはBにとってあまりに酷ではないか、ということで、頭の良い人達は何とかBが住み続けられてCとの公平性も害さない方法がないかと考えたわけです。そして、「そうだ、所有と居住の権利を分けよう!」とひらめいたわけです。
そして、財産的評価についても、所有権と居住権で分けることができるようにしました。例えば、居住権を800万円、居住権の負担付き所有権を1200万円とすることが可能となります。
このように所有権と居住権を別々に評価できるとなると、遺産分割での選択肢が増えます。例えば、Bに配偶者居住権(800万円)+預金450万円、Cには所有権(1200万円)+預金50万円という分け方も可能になります。
このような分け方ができれば、A死亡後のBの居住を確保したうえで、さらに生活費として現預金を遺すことも可能です。これが配偶者居住権が創設された趣旨です。
2 配偶者居住権の内容
配偶者居住権の中身としては、上記で説明したとおり、居住と所有の権利を別々に評価するということになります。
しかし、配偶者であれば何もしなくても配偶者居住権を有するということにはなりません。配偶者居住権を設定する場合、①遺産分割で取り決めるか、②遺言で設定するか、のいずれかの方法を採る必要があります(民法第1028条第1項)。
遺産分割で取り決める場合は、他の相続人の同意を得る必要がありますので、他の相続人との関係が悪い場合や交流がない場合は、確実性に欠けます。Aが自分の死後のBの住まいや生活を確保したいのであれば、遺言で設定しておく方が確実です。ただし、前述のとおり、配偶者居住権は来年4月1日が施行日ですので、この日以降に遺言を作成する必要があることに注意してください。
では、遺言で備える前にAが死亡してしまい、他の相続人の同意も得られない場合、Bは直ちに退去しなければならないのでしょうか?
実は、今回の改正ではこの点にも保護が図られることになりました。これが「配偶者短期居住権」ですが、この説明については、相続法改正連続講座第11回に譲ります。
3 まとめ
配偶者居住権制度について少しご理解いただけたでしょうか。
ちなみに、「子が親を自宅から追い出すなんてそうそうないのでは?」なんて思われる方もいるかもしれませんが、悲しいことに現実ではそれほど珍しくありません。特にBが子どものいない後妻で、Cが前妻の子などというパターンでは、確率がぐっと高くなります。自分の死後に望まない遺産争いなどが生じないよう、事前に備えておくことが大切です。
当事務所では、遺言や遺産分割協議書の作成についてもご相談を承っています。お気軽にご相談ください。