皆様、こんにちは。
今回の青山通信も、相続法改正に関する連続講座をお送りします。
第3回のテーマは「遺産分割前における預貯金の払戻し制度等の創設・要件明確化」です。
皆様こんにちは。
弁護士の柴澤です。
今回は、令和元年7月1日から施行されている、「遺産分割前における預貯金の払戻し制度等の創設・要件明確化」についてご紹介いたします。
金融機関は、口座名義人の死亡を知ったときに預貯金の口座を凍結します。
そのため、亡くなった方の相続人が、当該預貯金を生活費等に充てたいといった場合、金融機関で相続に関する手続をとる必要があります。
それでは、被相続人名義の預貯金債権はどのように相続人に帰属するのでしょうか。
最決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁(以下「平成28年決定」といいます。)の前後で考え方が変わります。
(1)平成28年決定の前
預貯金債権は、相続開始と同時に各共同相続人の相続分に応じて当然に分割され、各共同相続人は自己に帰属した債権を単独で行使することができると考えられていました(最判平成16年4月20日集民214号13頁。以下「平成16年判決」といいます。)。
(2)平成28年決定の後
平成28年決定は、平成16年判決を変更し、預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとの判断を示しました。
これにより、遺産分割までの間は、共同相続人全員の同意を得なければ預貯金債権を行使することができなくなりました。
しかしながら、このように解すると、相続人は、被相続人の債務を弁済し又は当面の生活費に充てるために、被相続人の預貯金を払い戻すことができなくなってしまいます。
この制度により払い戻せる額は次のとおりです。
相続開始時の預貯金債権の額(口座ごとの金額)×1/3×払戻しを求める共同相続人の法定相続分
※ただし、金融機関ごとに法務省令で定める額(150万円)を限度とする
上記の払戻しを行った場合、その権利行使がされた預貯金債権については、その権利行使をした共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。
これにより、共同相続人の一部の方がその後の遺産分割で取得することとされた額を超えて払戻しを受けていた場合には、その超過部分を精算すべき義務を負うことになります。
この制度は、令和元年7月1日から施行されていますので(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律附則1条柱書本文)、これ以降に相続が開始された場合には適用されます。
また、この日の前日までに相続が開始した場合であっても、同日以降に預貯金債権が行使されるときには適用されます(同法附則5条1項)。
以上のとおり、遺産分割前でも一定の範囲で預貯金の払戻しを請求することができることとなりました。
全額を払い戻せるわけではないので、その点にはご注意ください。
当事務所では、解約払戻しに関するご相談にも対応しております。お気軽にご相談ください。