皆様、こんにちは。
今回の青山通信も、相続法改正に関する連続講座をお送りします。
第6回のテーマは「遺留分制度の見直し」です。
皆様、こんにちは。
弁護士の増子です。
皆さんは「遺留分(いりゅうぶん)」を知っていますか。
遺留分とは、簡単に言えば「たとえ被相続人の意思に反したとしても最低限保証される相続人の権利」です。
例えば、法定相続人が配偶者と子(1人)の場合で、被相続人がすべての財産を配偶者に相続させると遺言していたとします。
この場合、子は遺留分権利者ですので、配偶者に対して、遺留分(法定相続分の2分の1)をよこせと請求することができます。
これを「遺留分減殺請求」と言っていました(相続法改正前)。
ただ、この遺留分減殺請求には問題点がありました。
遺産が現預金のみであれば、遺留分に相当する金額を渡せば解決しますが、不動産など物理的に分けられないものが遺産であった場合、特定の人に引き継いでほしいと願った被相続人がせっかく遺言をしても、遺留分減殺請求がなされると、この不動産は遺留分権利者との共有となってしまいます。場合によっては、不動産を売却して遺留分相当額を支払わなければならないこともあります。そうすると、結局被相続人の願いは実現不可能となってしまいます。
さらに、被相続人が事業を行っていた場合、遺産となっている不動産が事業にとって重要な財産であることも少なくなく、遺留分の問題が家族間の問題にとどまらず、会社の従業員や取引先、株主にまで影響を及ぼすこともありました。
今回の相続法の改正では、このような遺留分減殺請求の問題点を解消するため、遺留分減殺請求権を「遺留分侵害額請求権」(民法第1046条第1項)という金銭請求権に改めました。
これによって、遺留分権利者は、他の相続人あるいは受贈者に対して、金銭請求「しか」できません。
先ほどの例でいいますと、遺産が不動産であった場合に被相続人が「配偶者にすべて相続させる」と遺言した場合、子が遺留分を主張したとしても、不動産は共有にはならず、子は配偶者に対して遺留分侵害額について金銭請求ができるのみとなります。
これによって、不動産の承継者が定まらないといった問題は解消され、適切な事業承継が可能となります。
ただし、今回の改正を経ても、問題は残ります。
たとえ金銭請求しかできないと言っても、その金銭が用意できなければ、結局不動産を売却せざるを得なくなるからです。
したがって、適切な事業承継を実現したい被相続人としては、遺言で後継者に重要な財産を遺すのに加えて、遺留分侵害額請求を見据えて、後継者を受取人とした生命保険を合わせて用意しておくなど、複数の対策が必要となります。
将来の事業承継をご検討の方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
なお、兄弟姉妹には遺留分がありませんのでご注意ください。